数十年前の博多の夏。
4才の私は赤い水玉のワンピースを着ていました。
そしてアイスキャンディ屋さんの店の前に立っていました。そこは,何日か前,自転車に私を乗せた父がアイスキャンディを買ったところです。
「何しようと?母ちゃん待っとーと?」と店のおばさんが大きなアイスボックスの上から首を伸ばして私に言いました。
「ううん。」
「そうね。」と,おばさんは店の奥に入ってしまいました。
しばらくの間,まだ帰らずにいる私に向かって,おばさんが出てきて私をじっと見つめて言いました。
「アイスキャンディが欲しいと?」
「うん・・・。」
おばさんは少し考えていましたが,やおら思いアイスボックスのふたを開け,黄色いミルク色のアイスキャンディを1本私に持たせました。
「落とさんとよ。」
私は,アイスキャンディを高々と振りかざし小さな商店街の中を歩きます。
ふと見ると家から商店街までの5分くらいの坂道を母が前掛けをヒラヒラさせながら,転がるように走ってくるのが見えました。
博多の夏の,懐かしい思い出です。