水引といえば、祝儀袋に結ばれているあの紐、ですが、その起源は飛鳥時代とも室町時代ともいわれます。水引には封印、人と人のご縁を結ぶ、などの意味があり、古くからの日本の美しい習慣です。
その水引細工が、金沢の加賀水引に次いで今博多の町に「伝統文化」として花開いています。上呉服町にある「ながさわ結納店」を訪ねてみました。
お話を聞かせてくださったのは、「ながさわ結納店」初代店主の博多水引職人、長澤宏昭さんです。
ながさわ結納店は現在の場所に50年ほど前に開かれましたが、宏昭さんのおじい様は博多で興行師(※1)、おばあ様は「髪結いおちょうさん」と呼ばれる有名な髪結いさん(※2)であったそうです。そしてお父様も鬘師(かつらし)・結髪師として名を馳せ、博多に興行に来られた美空ひばりさんや南田洋子さん、市原悦子さんなど有名どころの女性の髪を結われ、宏昭さんも手伝うことがあったそうです。
その後宏昭さんはお茶屋さんを始め、お店には他の結納店から仕入れた水引の結納飾りを置いていましたが、ある時からご自分で水引細工を作るようになり、その出来栄えが評判となってあちこちのお茶屋さんから注文が入るようになったそうです。(※3)
お店の数も増え、「福岡市技能功労者」「福岡県優秀技能賞」「博多町人文化勲章」受賞、「全国結納風習総集編」編集など、素晴らしい業績を重ねてこられました。
そしてこの度、娘さんである宏美さんが跡を継ぎ、正式に二代目店主となられました。
宏美さんは大学の芸術学部を卒業後、デザイン関係のお仕事をされていましたが、8年前に博多に戻り、水引デザイナーとして大活躍されています。
宏美さんの作品の特徴は、その色彩と大胆なデザイン。日常生活で使える水引細工の美しさは、一度見ると忘れられない印象を与えます。2016年には、ボトルリボンで「福岡デザインアワード 大賞」を受賞されました。
こうして長澤家の歴史を辿ってみると、水引の繊細さ、色彩とデザインの素晴らしさなどの感性や技術は、明治の時代から博多町人の長澤家で脈々と受け継がれてきたものであることがわかります。
結納をされる方は残念ながら減っていますが、伝統文化である水引細工は見事に現代に生かされています。
なお、博多水引は神社(太宰府天満宮、櫛田神社、筥崎宮、香椎宮、護国神社のお守り等)や住吉酒販(ボトルリング)、三越、阪急、東急ハンズなど主に福岡市内の各所に置かれ、東京・大阪でも人気を博しているとのこと。企業とのコラボもあり、宏美さんはあちこち飛び回る多忙な日々を過ごされています。
ひとつ、私がどうしても気になっていた事をお尋ねしました。
ながさわ結納店のロゴマーク(店舗写真の暖簾参照)と、「和の博多」のそれが酷似しているのはなぜ?
それは、「和の博多」ロゴマークを宏美さんがデザインしたからなのだそうです。謎が解けました。
お店は今年2月に新築され、とても素敵です。これは、宏美さんが跡を継いでくれるなら綺麗なお店にしてあげよう、という宏昭さんのお気持ちだったようで、娘さんの話になるととても嬉しそうな笑顔になる宏昭さんでした。
皆様もぜひ一度博多水引をご覧になってください。たちまち吸い込まれるように虜になりますよ。
※1:大博劇場、川丈旅館などで演劇や歌謡その他の興行をプロデュースされた。
※2:「博多町家」ふるさと館の企画展「日本一の山を目指して~明治の博多町人富士山登山の顛末」(10/1~11/24)で紹介されている町人のお一人。
※3:九州の結納飾りにお茶が含まれているのは、栄西がお茶を初めてもたらしたことから、貴重な物として納めるようになったため。